*浅草木馬館*

ASAKUSA MOKUBAKAN

そして、その晩もまた、公園をさまよう若者たちが
「木馬館のラッパが、ばかによく響くではないか、あのラッパ吹きめ、きっと嬉しいことでもあるんだよ」
と笑いかわすほども、それゆえに、格二郎は、彼とお冬との嘆きをこめて、
いやいや、そればかりではないのだ、この世のありとあらゆる歎きの数々をラッパに託して、公園の隅から隅まで響けとばかり、吹き鳴らしていたのである。
無神経な木馬どもは、相変らず時計の針ように、格二郎たちを心棒にして、絶え間なく廻っていた。

「木馬は迴る」 大正15年10月「探偵趣味」(第2巻第9号)


現在の浅草公園の中で、作品当時の面影をもっとも残してると思われるのが、この「木馬亭」のある一画。つまり観音様の左側を六区に抜ける「花やしき通り」のあたりです。ここには今でも、軍服やチャンバラ衣装、礼服一式7,000円とか、質流れ品とかを売る、露店というかテント屋根の店がひしめき合っていて、このタイムスリップ感はとても不思議でコワイです。この日、木馬亭では梅沢一座の公演がかかっていました。残念ながら写真では暗くてよく解かりませんが、入り口のところに「木馬館」時代を偲ぶ木馬が飾られています。今の遊園地のメリーゴーラウンドと比べ、とても小さいです。




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