*仁王門*

NIOU-MON

真夜中に、仁王門の高欄の上から、まるで石川五右衛門みたいに、人間豹が頬杖をついて、仲見世の通りを見下ろしていたという怪談もあった。 毎夜観音さまへお詣りする若い芸者が、友だちと二人づれで、仁王門を通りすぎたとき、その一人がなにげなく門の天井を見上げたのだが、すると、例の奉納の大提灯の上に、なんだか人間の首らしいものが、まるで獄門みたいに、ヒョイと覗いているのが、仲見世の遠明かりに、ぼんやり見えていたという。 一人が天井を見上げて立ち止まったので、もう一人もいっしょになって、その方を見ると、確かに人の首、しかも両眼が燐のように青く燃えていた。

「人間豹」 昭和9年5月〜10年5月「講談倶楽部」(第24巻5〜第25巻5号)


仁王門は正式には宝蔵門といい、昭和39年(1964)に再建されました。この楼上には国宝の「法華経」や国重要文化財の「大蔵経」が納められています。現在の仁王門が完成したのは乱歩が亡くなる1年前ですから、当然この「人間豹」が隠れた大提灯がぶらさがっていた門は、戦災で焼ける以前の古い方です。この仁王門にはもちろん2体の仁王様が立っているのですが、注目はその門の裏側にぶら下がっている大わらじです。なんでも仁王様が履くわらじだと小さい頃教わったのですが、さすがの仁王様も履けないくらいデカイのです。




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