*寛永寺五重塔*

KAN-EI JI GOJU NO TOU

眼を塔の頂上に釘づけにしたまま、だんだんあとずさりをして、いつのまにか元の木陰に戻っていた。彼はその木の幹に手をかけて、何かしら異様な予感におびえながら、塔の屋根をにらみつづけた。 すると、とつぜん、頂上の屋根の端に、大きな風鈴がぶらさがって、風もないのに、烈しくゆれているのに気づいた。 だが、あんな大きな風鈴があるだろうか。屋根の端で左右にゆれているのは、いかにも風鈴そのままだけれど、そのまっ黒なものは、釣鐘型ではなくて、人形のように見えた。頭や手足がついていた。

「幽鬼の塔」 昭和14年4月〜15年3月「日の出」(第8巻4〜第9巻3号)


この五重塔は国の重要文化財で寛永16年(1639)に造営されました。現在は上野動物園の中に建っています。動物園の中にニョッキリと古い五重塔が建っているのは不思議な光景で、とくに動物園のこのあたりは鶴が放し飼いになっていて、五重塔をバックに鶴が羽ばたいているところなんかを目の当たりにすると、極楽浄土(?)にいるような気分になれます。ところで、この五重塔は注意してみると面白いつくりになっていて、五階部分の屋根は銅の板張りなんですが、それ以外の階は瓦葺きなのです。鶴の羽ばたく五重塔を前にして、マニアックな会話を楽しみたいかたは是非利用して下さい。




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