*美術館*
「盲獣」 昭和6年2月〜7年3月「朝日」(第3巻2〜第4巻3号)
上野公園内には昔から美術館や博物館がたくさんあります。そして最近は国立博物館平成館のオープンや西洋美術館の大改装、そして東京芸術大学の展示室の一般公開など、どんどん大規模で近代的な芸術の森に変貌しています。公園内に林立する美術館群は展示品のみならずその建物自体の美しさも競い合っているのです。そのなかで乱歩の時代の面影を強く残す建物といったら「国立科学博物館」でしょう。入場した途端に感じるかび臭さや薄暗い階段、たまに小さな足音が聞こえるくらいで、たいていは静まりかえっている館内。展示室の向こうから黒眼鏡の盲獣が顔を出しそうです。ところでこの「盲獣」は乱歩のなかでもエログロに振り切れている作品で、本人も発表後かなり後悔したようで、出版されている本によってバージョン違いがいくつかあります。バラバラに切り刻んだ死体を鎌倉ハムだといって船の乗客に配るシーンなど、さすがに書いていていやになったんでしょうか、講談社の本には削除されています。